井田幸昌さん(後編)
Talk

井田 幸昌 画家 現代美術家

(後編)

誰かに求められて描く絵と、自分が描きたい絵と。

人から頼まれたものを描くと、途中でイメージが切れちゃうことがあります。頼んでくださった方にイメージのゴールがあるので、それに僕が合わせていくとそれ以上イマジネーションが降りてこないというか、湧いてこないんですよね。限界値が僕にないというのはしんどくなることはあります。自分が描きたいものを描かせていただく方が僕には向いているんだと思います。 だって描きたいということは、それが好きだし、それの魅力を知っているということ。どうやって描こうかなってこうワクワクするんです。そのワクワクする感じを表現するので、それを見ていただきたい。僕は、絵を描きたくて画家になった。画家になった理由は、好きなものを創りたいから。その好きなものというのは、自分が生きてきて出会ったもののはずで、それを描くことが僕にとっての描くっていう行為なんです。いろんなタイプの方がいらっしゃると思うけど、僕の場合はやっぱり僕が何を見たかを見てほしい、でそれがいかに人に伝わるか見てみたい、と画家を、表現を続けています。

自分の作風ってなんだろう。


取材中などで、「井田さんはすでに画風が確立されてて」「いつからそうなったんですか」と言われることがある。が、自分では画風があるとは思っていません。いまだにブレブレなんですよ(笑)。すぐに飽きちゃうし、違うことを始めちゃうんですよね。僕が飽き性っていうのもあるんですけど、画風とかフォーマットということはあまり興味がなくて、意識をしていない。
10代では、一生懸命勉強して、自分の画風を確立しようと思ってた時期もありました。でも、延々と描いていて自分のテイストや、絵画というものがどんどんわかってきたら、僕は同じものを一生やり続けるのは無理だと気づきました。そしたら気が楽になって、めっちゃ楽しくなって、無我夢中で様々なチャレンジができました。 常に新鮮に絵を描いていたい。画風と呼べるものはないですが、そういう自分のスタイルがあるかもしれないですね。“新しさ”というよりは”新鮮“さって感じなんですけど、常に新鮮でいたい。そう今はいってますが、60歳、70歳になった時に同じ絵しか描けなくなっちゃうかもしれないんですけどね。今はまだ挑戦が継続できてるんでいいかなっていう(笑)。肉体の変化と共にそういうものも変わっていくと思います。20代の頃よりはブレが減ったとも思いますしね。今は挑戦し続けたいですね。

いかにナチュラルでいられるかということ。


新鮮にやりたいと話しましたが、その新しさっていうのは、自分の中で自分にとって新しいことであればいい。初めて出会ったみたいなところが作品に一欠片でもあるとすごくその作品を好きになれるし、自分が好きになれる。でも、それを求めてやり出すと、それが目的になっちゃうんですよ、そうすると出てこなくなっちゃうんです。無心で集中してやってる時にこそ、新しい何かと出会うことが多い。だか ら、いかに無心になるかが最近のテーマになってたりします。 調子のいい時は、自分で描いてないみたいな感じになるというか、ほんと動かされてやってるみたいになるんですよ。バンバン絵が決まっていくし、楽しい。その状態にいかになるかというところですね。そこは20代の頃よりはコントロールできるようになってきた気がするんですけど、まだまだですね。

絵で表現したいこと。


描くことで表現したいことだったら、毎回変わります。メインテーマとしては一期一会、時間、出会いなどですが、ディテールを探っていくと一言では言えません。 何か僕が美しい時間を過ごすなかで描く動機を得て、描こうと思った僕だけのス トーリーを絵にすることで、そのストーリーが具現化されます。その具現化された作品を見て、何かこう時間の共有っていうか、僕しか知り得なかったものを誰かと 共有している感覚はあります。さっきの希望って話にこれも繋がっちゃうんですけ ど、なんかその時間をお互い共有してお互いいい時間が過ごせたらなあ、みたいなことはすごく思っています。自分の作品を発表するってそういうことかなとも思うし、なんでその人に絵を見せるのかっていうと、やっぱ共有したいからだよなみたいな。もしかしたらすごく傲慢かもしれないんですけど。でもそれでもし誰かが幸せになるなら、それが一番ハッピーだし、僕もハッピーだし、みんなウィンウィンでいいじゃんみたいに思ったりして。言い方は難しいけど、でも根っこの部分はそういう気持ちで作品作っています。

絶対に裏切らないもの。

実は、臆病者なんですよね。作品を創る時だけ大胆になれる。絵は僕の味方なんです。すごい先生でもあるし、友達でもあるし。絵は絶対裏切らないなと思っている。 絵を裏切るとしたら僕だと思っていて、絵が腐る時は僕が悪いんだろうと思う。全部自分のせいと考えると、逃げ道はなくて、逆に楽だなって思っています。



井田 幸昌

画家・現代美術家。1990年鳥取県生まれ。2019年東京藝術大学大学院油画修了。 2016年現代芸術振興財団主催の「CAF 賞」にて審査員特別賞受賞。2017年レオ ナルド・ディカプリオ財団主催のチャリティオークションに史上最年少参加。同年に株式会社IDA Studioを設立。2018年 ForbesJAPAN主催「30UNDER30JAPAN」に選出。2021 年には Dior とのコラボレーションを発表するなど多角的に活動。同年、日本の民間人として初めてISSに滞在する宇宙旅行を行った 前澤友作氏によって、作品「画家のアトリエ」が ISS に設置された。制作は絵画のみにとどまらず、彫刻や版画にも取り組み、国内外で発表を続けている。 主な個展に「King of limbs」(カイカイキキギャラリー、東京、2020)、「Here and Now」(マリアン・イブラヒム・ギャラリー、シカゴ、2021) 「YUKIMASA IDA visits PABLO PICASSO」(ピカソ生誕地ミュージアム、マラガ、2022)、「Now is Gone」(マリアン・イブラヒム・ギャラリー、パリ、2022)。 今後も様々な企画が控えている。